メンズジュエリーの世界に「最古参」と呼べるブランドは、そう多くない。
1980年、LA。一人のイタリア系アメリカ人がシルバーとレザーを組み合わせるという、斬新なジュエリーを取り扱う店を開いた。その名はレザーズアンドトレジャーズ。
デニス・ポリチーノ氏という男が遺したものは、単なるジュエリーブランドではない。一人の弟子が海を渡り、何度も拒まれながら、ついに技術と魂を受け継いだ──そういう物語そのものだ。
ブランドコンセプトは「God is in the Details(神は細部に宿る)」。今回はこの言葉の意味を、創設者の人生と、ブランドを継承した日本人デザイナーの軌跡から紐解いていく。
目次
デニス・ポリチーノ氏という男──ブロンクスからLAへ

1946年5月11日、ニューヨーク・ブロンクス。
デニス・ポリチーノ氏(Dennis Pollicino)は、イタリア人の両親のもとに生まれた。父は革細工と陶器の染色を手掛ける職人。幼いデニス氏は、ヨーロッパの伝統的な名匠が作る芸術作品に囲まれて育つ。革を扱う技術も、芸術への情熱も、すべて父から受け継いだものだった。
カリフォルニアで自分の店を開くこと。それが少年時代のデニス氏の夢だった。
学校を卒業した彼が選んだ道は、しかし芸術ではなく軍隊だった。アメリカ海軍に入隊し、数年間を巡洋艦の上で過ごす。除隊後、ようやく夢だった店のオープンに漕ぎつけた。1980年のことだ。
デニス氏の人柄は、作品以上に人を惹きつけた。常に陽気で、誰とでもすぐに打ち解ける。デニス氏に出会ったことのある人間は、作品よりも彼自身の人柄に惚れ込んだという。
父から学んだ革細工の技術をもとに、デニス氏は独自のブレイデッド(編み込み)技法を開発する。過去に類を見ないジュエリーデザインは、こうして世界中で評価されることになった。
セレブリティを魅了したシルバー──著名人にまつわるエピソード
デニス氏のジュエリーを身につけた著名人のリストは、メンズジュエリー史の中でも特筆に値する。
- ミック・ジャガー(ローリングストーンズ)
- チェスター・ベニントン(リンキンパーク)
- スティーブン・タイラー(エアロスミス)
- ジョニー・デップ
- シルベスター・スタローン
- HYDE(ラルクアンシエル/ヴァンプス)
- yasu(ジャンヌダルク/アシッドブラックチェリー)
90年代にはファッション誌のVOGUEからの依頼により表彰時に進呈する作品の製作依頼を受けたほか、ブルネイ(世界屈指の富裕国として知られる)の国王が、自らの馬の鞭や鞍など装飾品の製作をデニス氏に直接依頼したこともある。
1986年にはデニス氏が制作に携わった作品が、エミーアワードでアウトスタンディング・カスタムデザイン賞を受賞。アメリカの美術館や博物館にデニス氏の作品が収蔵されていることも、ファッションを超えた芸術的評価の高さを物語っている。
インレイワークという発明──シルバーとレザーが出会う場所
レザーズアンドトレジャーズという名前そのものが、このブランドの本質を表している。
デニス氏が確立した代表的な技法が「インレイワーク」だ。シルバーにレザーをはめ込む技術であり、レザーの持つ質感とシルバーの輝きを一点に融合させる。冷たく硬質なはずのシルバーが、レザーの温かみを宿すことで、独特の存在感を獲得する。
もう一つの代表技法が「3Dギミック」。スカルの顎が開閉するムービングジョーなどデザインにリアルさを追求し、立体的な仕掛けを組み込んだ作品群だ。アンティークジュエリーのような暖かみと、機構としての精緻さ──この二つを同時に成立させる技術へのこだわりこそが「神は細部に宿る」という言葉の実体だ。
ヨーロッパの伝統的なアンティークジュエリーへの憧れと、独自に開発した技法。この二つが組み合わさることで、時を経ても色褪せない作品が生まれ続けている。
スティングレイレザー──「海の宝石」と呼ばれる革

レザーズアンドトレジャーズのインレイワークに欠かせない素材が、スティングレイレザー(エイ革)だ。
英語でスティングレイ、フランス語でガルーシャと呼ばれるこの革は、東南アジアの亜熱帯地域に生息するアカエイを鞣したもの。表面はリン酸カルシウムから成る小さな粒状の楯鱗に覆われている──これは人間の歯と同じ成分だ。
水に強く、非常に硬く、光沢感がある。牛革の10倍ともいわれる強度を持ちながら、しなやかに曲がる。革の中心には光や感覚を感知する器官の跡が残っており、これは「スターマーク」と呼ばれる。「天眼」「神の目」とも称され、古くから幸運の象徴とされてきた。日本でも武士が運気を高めるため、刀の柄にエイ革を使ったという歴史がある。
その美しさと希少性から「海の宝石」とも呼ばれるこの革は、加工が極めて難しい。硬すぎて通常の針が折れてしまうほどだ。だからこそ、これを自在に操りシルバーへ埋め込む技術は、職人の技量を測る指標になる。
ジュエリーコネクションで扱うアイテムの多くは、ブラック・レッド・グリーン・ターコイズ・バーガンディなど複数のレザーカラーから選択でき、ブランドオーダーの場合はさらに細かなK18素材などを組み合わせる一部の素材変更や、ダイヤモンドなどを留めるジュエリーカスタムも可能だ。天然素材ゆえの個体差もまた、このブランドが大切にしている魅力の一部となっている。
向條伸哉──すれ違いの末に掴んだ師弟関係

1980年9月26日、大阪府茨木市。
向條伸哉氏は、幼少期から絵を描くことや工作に興味を持つ少年だった。将来を模索する中でジュエリーデザイナーという職業を知り、彫金の道を歩み始める。
彫金学校に通っていたある日、ジュエリー雑誌に掲載されていたレザーズアンドトレジャーズの作品に出会う。衝撃だった。アメリカ在住の知人がデニス氏と交流を持っていたことを頼りに、向條氏は弟子入りを志願し、単身渡米する。
しかし、会う直前にデニス氏へ急用が入り、交流は実現しなかった。その後も複数回渡米するが、いずれもタイミングが合わず帰国を繰り返す。
転機が訪れたのは2006年。国内旗艦店オープンのパーティーにデニス氏から招待を受け、自身が手掛けたジュエリーをプレゼントしたことから、ようやく交流が生まれる。
そこから複数回の弟子入り志願を経て、2011年、デニス氏から本格的な弟子入りを認められる。日本とアメリカを何度も行き来しながら技術指導を受け、彫金技術を磨き続けた。
2014年、デニス氏はデザイナーとしての技術を認め、向條氏を二代目デザイナーとして任命する。最初の接触から、実に十年近い歳月が流れていた。
二代目デザイナーとして──継承と進化のあいだで

デニス氏の体調は2012年10月末から悪化し始める。
そして2014年12月13日、デニス・ポリチーノ氏はこの世を去った。「ビヨンクール」という社名そのものが、生前のデニス氏が名付け親だったという事実が、二人の関係の深さを物語っている。
デニス氏の生前の要望もあり、レザーズアンドトレジャーズは向條氏が受け継ぐことになる。現在ブランドの原型製作を担うのは向條氏ただ一人で、長くブランドが永続するよう技術が認められた数人のチームで制作を行っている。彼は生前のデニス氏に寄り添い、厚い信頼を受けながら技術を継承した唯一の人物として、ブランドの世界観を守り続けている。
向條氏は現在、デニス氏が晩年の体調不良で実現できなかったミニサイズのアイテム展開やより新たなギミックが詰め込まれた作品など、ブランドコンセプトを継続しながらも新たな表現を生み出している。原型制作やアイテム製作だけでなく、書籍「現代日本のジュエリー作家125人」に選出されるなど、一人のアーティストとしての存在感も確かなものになっている。
ポープスインレイリング──ブランドを象徴する名作

レザーズアンドトレジャーズを語る上で欠かせない名作でもあり、敬虔なキリスト教徒だったデニス氏がローマ法王へ献上したポープスクロスペンダント。そのデザインに荘厳なゴシック様式を取り入れ、ブランドを代表する作品として生み出されたのが「ポープスインレイリング(Pope’s Inlay Ring)」だ。スティングレイレザーをシルバーへ埋め込むインレイワークの集大成ともいえるデザインで、長年ブランドのシグネチャーとして君臨してきた。
2025年、初代デザイナーの命日12月13日に合わせて、このポープスインレイリングはより洗練された。
「スモールポープスインレイリング」として再構築された。ただコンパクトなフォルムへ生まれ変わっただけでなく着用時のバランスも考慮して制作されたそのデザインは、デニス氏が重んじた「細部への美学」がより鮮明に立ち上がり、装飾の繊細さと技術の緻密さが一層際立つ作品に仕上がっている。
カスタム仕様は、商品ごとに設定された選択肢の範囲でオーダーできる。選択可能なパーツや仕様は商品ページで確認でき、一点ごとの個性を楽しめるというブランドの哲学がここにも貫かれている。
ガーディアンエンジェル──天使というモチーフに込めた祈り

レザーズアンドトレジャーズの近年の展開で象徴的なのが「ガーディアンエンジェル」をはじめとする天使モチーフのシリーズだ。
エンブレイスフェザーインレイペンダントの中央には、祈りを捧げる天使がデザインされている。着用する者に神の加護が訪れますように──そんな願いが込められた意匠だ。
今までに無いほどの繊細な透かし彫り技法を取り入れ、空を舞う天使の羽根をかたちにしたスクロールフェザーペンダント。そして包み込まれるような柔らかな天使の羽根から着想を得た、エンブレイスフェザーペンダント。それぞれが「神は細部に宿る」というブランドコンセプトを、ヨーロッパの宗教美術的な意匠に落とし込んでいる。
ダイヤモンドパヴェ仕様やK18コンビの仕様など、価格帯も6万円台から幅広く展開されており、シンプルな一本から本格的なカスタムまで選択肢がある。
12月13日──デニス氏への敬意を刻む特別な日

初代デザイナー、デニス・ポリチーノ氏の命日である12月13日。レザーズアンドトレジャーズはこの日を「ブランドの原点を見つめ直す特別な日」として位置づけ、毎年新作を発表してきた。そこに込められるのは、デニス氏への深い敬意と感謝、そして彼が遺した創造性を未来へ継承していきたいという使命感だ。
2020年にはデニス氏の名前を冠するオリジナルデザインとして制作した普遍的な十字架に、長い年月を経ても愛され続けるよう現代的なエッセンスを加え、向條氏がデニス氏へ贈る特別な作品として「ポリチーノクロス 2nd」を制作した。 この作品は発表後より現在に至るまで、ブランドを代表する人気アイテムとして受け入れ続けられている。
こうした年に一度の儀式は、単なる商業的な周年企画ではない。一人の弟子が師の遺志を背負い続けているという、ブランドの根幹にある物語そのものの再演だ。
ジュエリーコネクション──正規の入口がここにある

レザーズアンドトレジャーズのような長い歴史を持つブランドには、カスタムオーダーという独自の文化がある。見積りに1〜2週間ほどかかる場合があるが、それは一点ごとに向條氏の手が入るということの証だ。
正規取扱店であるビヨンクールが運営する公式オンラインストアジュエリーコネクション(Jewelry Connection)では、スタンダードな各カテゴリーから、向條氏監修のカスタムアイテム、限定コラボレーションまで幅広く取り扱っている。
レザーズアンドトレジャーズの大半のアイテムは、商品ページに記載のカスタム仕様に沿ってオーダーが可能。スティングレイレザーのカラー変更や、天然石の個体差も含めて、一点ごとの「らしさ」を楽しめる仕組みが整っている。
オンラインで貯まるポイントは実店舗でも使用でき、その逆もまた然り。ECと実店舗が一つの円環として設計されているのは、ビヨンクールグループ全体が持つ誠実さの表れだ。
神は細部に宿る、その意味を指の上で
一人のブロンクス生まれの青年が、父から受け継いだ革の技術をシルバーに重ね合わせた。
一人の日本生まれの青年が、その作品に衝撃を受け、何年も拒まれながら海を渡り続けた。
師弟関係が成立するまでに費やされた歳月。デニス氏が世を去った後も、12月13日という一日に込め続けられる敬意。
「God is in the Details」
この言葉は、彫金の技術だけを指しているのではない。一人の人間が別の人間の遺志を受け継ぎ続けるという、細部に宿る誠実さそのものを指している。
レザーズアンドトレジャーズ正規品のご購入・お問い合わせ
ジュエリーコネクション(Jewelry Connection)
https://www.j-connection.jp/c/brand/leathersandtreasures
電話番号:070-1394-3723
ビヨンクールキャッスル 大阪本店
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